現代脱藩論

大企業からスタートアップの世界へ脱藩したEX-IBMer。テクノロジーでパラダイム・シフトが起きようとしている中で、スタートアップやビジネスデザイン、アプリ開発などを私的見解とともに書きます。

ゼロイチ人材

数字という共通言語により統制された現代

ITシステムは皆さんの見えないところで機械化され、さまざまな業務に作業効率をもたらし世の中を便利にしました。

 

普段は目に触れることがないのですが、例えば銀行にお金を預けたり、振込したりしますよね?航空券の予約だったり。

製鉄所なんてのも24時間稼働してないとだめなのですが、鉄釜の温度調整などをシステムで管理してます。

  

 

ITは経営に密接に繋がっているのは自明なのですが、これが意外と理解していない企業が多いのが現状です。

 

 

何故か。

 

指標化するのが難しいから。売り上げを上げて数字として現れているのは営業成績だから。

(もちろん全て機械化されてるビジネスはその限りではないですが)

 

巨大企業であればあるほど組織の統制をきかす上で最も単純な方法は数字に変換してしまうことです。

 

世界共通言語ですし、他の組織との共通言語にもなるので、そっちのが管理するのに楽なんです。

 

システム部上がりの人は、コストカッター程度にしか見られてませんでした。

 

会社への貢献を何で測るかが難しいのですが、いまのところは目に見えた利益という形でしか評価がないのも現実です。

 

正確にはフェーズによって求められる人材が違っていて、ここまでは利益直結型の評価は理にかなっていたんです。

 

少し昔に戻って例えてみます。戦後間もない頃、日本は焼け野原になり何もなかった時でした。

 

この時、0→1を創り上げるゼロイチ人材が世の中に必要だった。ソニーの井深さん盛田さんとか松下電器松下幸之助さんとかHONDAの本田宗一郎さんとか。いわゆる起業家と言われる方々。

 

その次の時代は1→10(イチジュウ)にするフェーズで、この辺りか事業家と言われる人が活躍。1あるものを10にする力。これも大変ですが、効率化とビジネス開発のバランスが必要なフェーズですね。

 

安定経済の時期の10→100(ジュウヒャク)のフェーズは経営者と言われ、効率化してスケールさせるところですね。

 

いままさに大きな企業は10→100(ジュウヒャク)にした人が中心です。

 

さて、これからの時代は何が起きるのか。

 

AIといわれる人工知能によって、いままで人間が価値として認識してこなかったものが、目に見える形になって価値になる時代に突入しました。

 

スマホを通して人間の言葉、文章だけでなく、体験や感情、画像、動画、共感、こういったものが新しいビジネス的な価値を持つようになりました。 

 

さて、こうなると困ったのが10→100(ジュウヒャク)にしていた経営者です。

 

既存のものを巧みに活用して、戦略を論理立てていけば解けた解が、解けなくなりました。

 

料理人に例えると、いままでレシピも材料もあった。あとはどう効率化して料理のクオリティを上げるかに集中していれば良かった。

 

しかしAI時代に突入すると、もはや見たことも聞いたこともない島にいきなり連れていかれ、まったく知らない人種の人たちにおいしい料理を振舞って喜ばせてあげてくださいと言われているようなものです。

 

あるのは美味しい料理が作れる最新の調理器具(テクノロジー)のみ。あとは裸一貫。

 

みなさんが料理人だったらどうするでしょう?

 

 

ジュウヒャク人材とゼロイチ人材

10→100(ジュウヒャク)の人はとりあえず、今までと同じように組織の力で材料を取り寄せ、レシピ通りに自信のある料理を試すことでしょう。

 

一方で、0→1(ゼロイチ)の人は違います。

 

この島に住んでる住人と対話し、その島の伝統文化や日常などを見に行き、どんなものが舌に合うかを注意深く観察するはずです。時には島の人にご馳走になったりすることもあるでしょう。島の人や自然などから感じる潜在的なニーズ探しにふらふらとしています。

 

さて、この0→1(ゼロイチ)の人の行動は、10→100(ジュウヒャク)の人からすると、あいつは何やってんだ全く楽しそうだな、全然料理作ろうとしないで何考えてんだ、となりますよね。

 

ところがこの島の人は実は普段は米も食べなければ、小麦も食べない。

 

それよりも、毎日の朝にかかさず飲むココナッツやトウモロコシなどを食べることが文化として根付いていた。

 

そこでこの0→1(ゼロイチ)の人は現地の秘伝のココナッツや美味しいトウモロコシなど現地の素材を住人と苦労して探して、一緒に調理器具を使って振る舞った。

 

さて、どちらのお店が繁盛するでしょう?

 

極端な例でしたが、AI時代のいまの縮図はそんなところです。

 

さらには100→1000にするというわけわかんない発想でAI活用だなんて話になるから、そもそもAIやテクノロジーが誤った方向に使われ始める。

 

それで、AIって何なんだ、使えないしわけわからないし効果ないじゃん。で終わってしまうのです。

 

これでは益々テクノロジーに取り残されます。

 

ひどい料理人になると、いまここがまったく知らない場所に連れてこられたということもさえもわかっていない場合もあります。

 

繰り返しになりますが、今まで目に見えなかったモノがいきなり目の前に現れました。そこでそのモノを価値に変えていくことが求められています。

 

どんな舌を持っていて、どんなものが好みなのか、お腹がそもそも空いているのか(どんなものに潜在的なニーズがあるか)を洞察し感じる力や、それに必要な材料がわかり仕込める力(データを集めて整理できる力)、そして調理器具を巧みに使いこなせる技(テクノロジーを使いこなせる技術力)の3つがこれからの時代に必要です。

 

こういった力は0→1(ゼロイチ)を作るときに力が養われます。

  

突如として見たこともないものに遭遇したときに対応できる柔軟な組織や文化が大企業にあるでしょうか?

  

私たちの会社は新規事業部がある、と思っている方も多いかもしれません。しかしながらその成果は10→100(ジュウヒャク)にする評価プロセスに乗ってるのではないでしょうか?

 

10→100(ジュウヒャク)にすることが成果として評価される組織で、まったくどうやったらゼロイチ人材が育つのでしょう?

 

 

ジュウヒャクで築いた企業文化が邪魔をする

いろんなお客様や役員の方ともお話ししてきて思いましたが、ゼロイチをどんどん作れとおっしゃる役員は大企業に1人いるかいないかです。

 

大企業が難しいところは、一人の役員だけでは社内の文化を変えることができないところです。ピータードラッカーの名言『文化は戦略を朝飯前に食っちゃうよ』にもある通り、文化というのは変えることが1番難しく、強力なんです。

 

文化を変えるには強力なトップダウンか、あるいは出島戦略(これはまたの機会に書きます)を取り、外の世界と繋がりじわりじわりと変わらないと行けないと言う警鐘を社内外で鳴らし続けることが肝心です。また、スタートアップと組んだりすることも重要です。 

 

ゼロイチ人材

もはや3年目〜5年目ぐらいの若手全員をどんどんスタートアップに挑戦させて自分たちのビジネスを食ってから戻ってこいぐらいの気概が必要なんじゃないかと思います。 

  

シリコンバレーに行かすぐらいなら、私は課題先進国の日本で挑戦した方がよっぽど先駆けたビジネスになると思っています。技術的にも素晴らしい中小企業も沢山あります。

 

こういった若い人たちが次のリーダーになり0→1を作っていかなければいけません。

 

IBMでは全社員にAdvocacy(アドボカシー)活動を行えと言っていました。

 

私も大いに賛成で、組織や企業の枠を超えてユーザーが何を感じ何を欲しているか、深く洞察する力を養うことが必要です。

 

縦組織や細かく区分けされた組織の範囲ではないエリアに今後のニーズがあるはずです。

 

越境とか脱藩とか色々と表現はありますが、こういった領域にもゼロイチ人材が育つ場所があります。

 

上から言われてAIやブロックチェーン、IoTを活用したビジネスを考えるのではなく、ゼロイチ人材はそこから自然と強力な解決したい何かや仮説が奥底から湧き出てくるはずです。

 

ゼロイチ人材を育てる文化をいかに築くかは既存のビジネスとは違う異分子を認め、活動を評価し伸ばせられるかです。

 

AI時代に突入し、今、企業のトップの力量が問われています。